不倫裁判の実例集|証拠・判決・慰謝料の全記録

不倫のリスク

感情が激しく揺れる不倫問題こそ、裁判の現実を知っておくことが大切です。

金額は声の大きさで決まらず、証拠の質と量、婚姻への影響、行為の悪質性、時効や手続の運び方で大きく変わります。

本記事は「実例集」として、低額から高額、免責・減額が成立したケースまでを分けて整理し、どんな証拠が通り、どの論点で覆るのかを明確化します。

読了後には、相場の肌感とともに、裁判所が重視するポイント(時系列の整合性・婚姻への影響・合法な証拠収集)が手元に残るはずです。

相場総観と判断軸の基礎

この章では、金額帯の全体像、増減要因、法律上の線引きを示し、以降の実例の読み方を揃えます。

実際の判例・公的情報を根拠に、過大・過少な期待を避ける足場を作ります。

相場は概ね五十万〜三百万円、中心は百万〜二百万円

弁護士による集計や多数の裁判例の紹介では、不倫の慰謝料は概ね五十万〜三百万円の帯に収まり、広い意味での中心は百万〜二百万円に集中します。

婚姻継続か離婚に至ったかで帯が動き、離婚なら二百万〜三百万円へ上がりやすいのが通例です。

もっとも固定額ではなく、期間・影響・態度・証拠の質で上下します。

実務感覚としての出発点を持ちつつ、具体事情で補正するのが現実的です。

増減要因の三本柱は「期間・影響・態度」

長期継続、同棲や妊娠、未成熟子への影響、発覚後の隠蔽や継続は増額側。

短期間、早期の解消・謝罪、関係の浅さは減額側に働きます。

ただし各要因は単独で自動的に金額を決めるものではなく、総合評価です。

交渉でも訴訟でも「どの事情がどれだけ影響したか」を時系列の資料で示すと説得力が増します。

数値帯の裏づけとして、実例で確認していきます。

法的な線引き:離婚慰謝料の第三者請求と婚姻破綻抗弁

配偶者の不貞相手へ「離婚に伴う慰謝料」を直接請求できるのは例外的です。

最高裁は、離婚させる意図で不当な干渉をしたなど特段の事情がない限り、第三者への離婚慰謝料請求は認めないと判示しています。

また、不貞時点で婚姻が実質的に破綻していたなら、原則として相手方の不法行為責任は否定され得ます。

どちらも実務で重要な防御・攻撃の論点です。

証拠が通る・通らないの分かれ目

この章では、裁判で重視される証拠の型と、越えてはいけない収集線引きを整理します。

合法かつ一貫した時系列の積み上げが鍵です。

強い証拠の組み合わせと「推認」の作り方

宿泊・滞在の記録、時刻と場所の連続性が分かる位置情報、ホテル出入りの画像、やり取りの履歴などを「誰と・どこで・どれくらい」を補い合う形で束ねると、肉体関係の推認が成立しやすくなります。

単独のホテル領収書や位置履歴だけでは弱く、組み合わせで「同じ時間・同じ場所・同じ二人」を描くのが実務のコツです。

位置履歴や領収書は状況証拠としては有用ですが、単独では決め手に欠けることを前提に設計します。

弱い・通りにくい証拠と例外的な否定例

食事写真や日常的なメッセージのみでは原則として不貞の立証力は弱く、キスや抱擁のみでも困難です。

一方で、ラブホテルの出入りがあっても、事情次第で不貞が否定された裁判例も存在します。極めて珍例ながら、「ラブホテル=即不貞」とは限らないという教訓になります。

したがって、単一の断片に頼らず、連続性と整合性を重ねる必要があります。

越えてはいけない線:違法・過度な追跡は逆にリスク

無断で車両に機器を取り付けるなど過度な追跡は、プライバシー侵害として逆に賠償を命じられ得ます。

証拠集めは合法の範囲で行い、必要に応じて弁護士の照会手続(弁護士会照会)など正規ルートを使うのが原則です。

違法収集は本筋の主張を傷つけ、別件の責任を負うおそれもあります。

実例集①:低額帯(四十万〜百万円未満)の判決

この章では、四十万〜百万円未満で認定された複数事例を取り上げ、裁判所が何を重視して低位に置いたかを読み解きます。

短期・破綻に近い事情・過失の評価などが鍵です。

四十万円:破綻に近い状態かつ一回限りの関係

東京地裁令和四年十二月十五日は、破綻に限りなく近い状態と評価される事実経過に加え、一回限りの関係であった点などを踏まえ、四十万円と認定しました。

婚姻の保護法益が既に弱く、侵害の程度も限定的とみた形です。

低額帯の典型として、破綻に近い事実(別居・交流実態の欠如等)と行為の単発性が重視されることが分かります。

四十万円:婚姻期間が短く増額要素に乏しい

東京地裁令和元年十月三十日は、婚姻期間が長期といえず、不貞行為も一度にとどまり、増額要素が見当たらないとして四十万円を認定。

期間・影響・態度の三本柱で見ても、上振れさせる事実が不足していた事例です。

低額帯は「短期・浅い関与・早期収束」が重なると現れやすいことが読み取れます。

五十万円:既婚の認識に過失があるが低位にとどまった

東京地裁令和五年三月十五日は、不貞期間は約二年としつつ、相手が既婚である点の認識に過失があるものの、不合理な説明が見られないなどの事情から五十万円と判断。

関係の長さがあっても、認識の程度や周辺事情で低位に着地することがあります。

実例集②:百万円〜三百万円帯と高額化の条件

この章では、相場の中心から高額帯へ上がる条件を、離婚の有無や生活侵食の度合いを軸に整理します。

総合評価での上振れ要因を具体化します。

百万〜百五十万円:婚姻継続・別居あり等の中位帯

婚姻は継続だが別居が生じた、期間は中長期だが極端な悪質性はない、といったケースでは百万〜百五十万円に集中します。

裁判例の集計でも、広い意味での中心帯は百万〜二百万円で、婚姻継続の場合は百万円台前半に収まることが多いとの実務感覚が共有されています。

二百万円前後:離婚に至り生活侵食が大きい

離婚に至った場合、精神的苦痛の大きさから二百万円級に乗りやすく、六年に及ぶ長期関係や同棲など生活への侵食が大きいとさらに上振れします。

高額帯を目指す場合は、期間・影響・態度を裏づける資料(診断書、別居・転居の記録、教育・家計への影響など)を厚く積む必要があります。

三百万円級は例外的:認容率は低い

三百万円以上の請求がそのまま認められる事例は高くなく、ある弁護士の裁判例分析では三百万円以上が認容されたのは一割未満という紹介もあります。

高額を狙うほど、行為態様や生活侵食、発覚後の態度の悪質性など、強い増額事由と確かな証拠の重なりが必須です。

実例集③:免責・減額が成立した典型

この章では、結果を左右した代表的な抗弁や例外を取り上げます。

勝ち筋を読み違えないための線引きを、最高裁と下級審の動きを合わせて把握します。

婚姻破綻抗弁が鍵:破綻していれば原則責任なし

最高裁は、当時すでに婚姻が実質的に破綻していた場合、原則として不貞相手の不法行為責任は否定されるとの立場を示しています。

実務上は長期別居、交流の断絶、修復断念の経過など外形的事実の積み上げが重要。

破綻の主張はハードルも高いものの、成立すれば結論を大きく左右します。

離婚慰謝料を第三者へ請求するには特段の事情が必要

配偶者の不貞相手に「離婚に伴う慰謝料」を求めるには、離婚に至らせる意図で不当な干渉をするなどの特段事情が必要と最高裁が明言。

離婚事由の中心が配偶者側の責任である限り、第三者にまで離婚慰謝料を広げるのは困難です。

請求設計の段階で、対象・範囲を取り違えないことが肝心です。

ラブホテル出入りでも不貞否定の例外がある

下級審には、ラブホテルの出入りがあっても不貞を否定した珍例が存在します。

一般には強い推認材料ですが、事情や証拠のつながり方次第で結論は動き得ます。

だからこそ、単発の断片ではなく、複数の証拠で連続性を補う設計が不可欠です。

手続・時効・条項:早期着地の実務

この章では、時間で負けない段取りと、二重取りや後日の紛争を避ける条項設計をまとめます。

手続きを先に整えるほど、結論に近づきます。

時効は原則「知った日から三年」+「行為から二十年」

不貞の慰謝料は、損害と加害者を知った時から三年、または行為から二十年の早い方で時効にかかるのが原則です。

期限が迫るときは、内容証明による催告で一度だけ六か月の完成猶予を確保できます。

離婚が絡む慰謝料は「離婚から三年」という別の起算もあるため、混同せずに管理しましょう。

重複請求の整理:総額管理と求償権の扱い

配偶者と相手へ並行して請求できても、同一損害の二重取りはできません。

示談では「本件一切の損害の清算」「総額」を明記し、相手から配偶者への求償権放棄を条項化するなど、将来紛争の芽を摘む工夫が重要です。

合意文言を誤ると、後の返還や追加紛争の火種となります。

証拠の棚卸しと合法的収集、弁護士活用

証拠は時系列で束ね、誰の何の言動かが分かる形に整理します。

ホテルの宿泊情報は、第三者の任意開示は困難で、必要なら弁護士会照会など正規ルートの検討を。違法・逸脱的な追跡は逆効果になり得ます。

早い段階で相談し、相場帯の見立てと条項設計まで伴走してもらうと、短期で適正額に着地しやすくなります。

まとめ

不倫裁判の金額は、広く見て五十万〜三百万円の帯に収まり、中心は百万〜二百万円に集まる傾向があります。

上振れ・下振れを決めるのは、期間・影響・態度の三本柱と、肉体関係を推認できる証拠の束ね方です。

離婚慰謝料の第三者請求や婚姻破綻抗弁など、結論を左右する法的な線引きも押さえておく必要があります。

違法・過度な追跡は逆リスク。時効管理・総額管理・条項設計までを一体で進めることが、短期で納得解に至る近道です。

実例の「型」を知れば、感情ではなく手続で前に進めます。

必要な場合は、合法的な証拠収集と交渉設計に詳しい専門家へ早めに相談し、時間で負けない体制を整えましょう。

参考リンク・出典

・最高裁判所判例集「夫婦の一方が他方と不貞行為に及んだ第三者に対し離婚に伴う慰謝料を請求することの可否」(最高裁第三小法廷 平成31年2月19日判決 事件番号 平成29(受)1456)
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=88422

・最高裁判所判例集「婚姻関係が既に破綻している夫婦の一方と肉体関係を持った第三者の他方配偶者に対する不法行為責任の有無」(最高裁第三小法廷 平成8年3月26日判決 事件番号 平成5(オ)281)
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=55876

・最高裁判所判例集「民法770条1項1号の不貞な行為の意義」(最高裁第一小法廷 昭和48年11月15日判決 事件番号 昭和48(オ)318)
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52108

・e-Gov法令検索「民法」該当条文
 不法行為の消滅時効(民法724条・724条の2)、催告による時効の完成猶予(民法150条)ほか
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

・法務省 民法改正リーフレット「2020年4月1日から事件や事故によって発生する損害賠償請求の時効が変わります」
https://www.moj.go.jp/content/001399955.pdf

・東京弁護士会 会報Libra「改正民法の不法行為法に与える影響」
https://www.toben.or.jp/message/libra/pdf/2020_12/p02-18.pdf

・小西総合法律事務所コラム「催告 時効の完成猶予(民法150条)」[2020年11月9日/参照日:2025年8月14日]
https://www.konishilaw.jp/column/698/

・福岡地方裁判所 令和2年12月23日判決の解説「ラブホテル出入りでも不貞不認定の事例(不貞行為立証の証明不十分)」林晴法律事務所記事
https://rinsei-law.com/lawyer-blog/rikon-isyaryou-003/

・弁護士ドットコムニュース「何度もラブホ宿泊も『不貞の証明不十分』驚きの判決」[2022年2月18日/参照日:2025年8月14日]
https://www.bengo4.com/c_3/n_14130/

・A法律事務所 不倫慰謝料判例まとめ「最新判例でみる金額相場と増減事由」
https://isharyou.a-lawoffice.jp/furin-hanreimatome

・ネクスパート法律事務所コラム「15の判例から見る不倫慰謝料の相場」※低額帯(40万円:東京地裁令和4年12月15日、令和元年10月30日)の事例を含む
https://nexpert-law.com/furin/columns/340-2

・裁判所定義の解説記事(名古屋総合法律事務所)「不貞行為とは何ですか?」※最高裁昭和48年11月15日判決の要旨引用を含む
https://www.nagoyasogo-rikon.com/qanda/whatisunfaithfulness/

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