「不倫から抜け出したいのに、気づけば同じ行動を繰り返してしまう」。
こうした悩みは珍しくありません。
ただし「不倫依存症」という言葉は俗称で、正式な診断名ではありません。
一方で、制御困難な衝動や反復行動が続き、生活や人間関係に深刻な影響を及ぼすケースは確かにあります。
本記事では、まず用語の整理から始め、抜け出せない人に見られやすい特徴を可視化し、今日からできる自己対処と、必要なときの専門支援の受け方までを丁寧にまとめます。
責めるためではなく、未来の自分を守るための「仕組みづくり」の視点で読み進めてください。
不倫依存症とは何か:言葉の整理と臨床概念の位置づけ
この章では、「不倫依存症」という俗称と、近い臨床概念の関係、誤解されやすいポイントをわかりやすく整理します。
俗称としての「不倫依存症」と、近い臨床概念の存在
「不倫依存症」は医学の正式名称ではありません。
近い臨床概念としては、国際疾病分類ICD-11に収載された「強迫性性行動症(Compulsive sexual behaviour disorder)」が挙げられます。
これは少なくとも半年以上、強い性的衝動や反復行動の制御に繰り返し失敗し、その結果として生活や仕事、家族関係に実害や著しい苦痛が生じる状態を指すもので、衝動制御の障害として位置づけられています。
名称は異なっても、「やめたいのに抑えられず、繰り返す」という核は共通します。
「依存」ではなく「制御困難と反復」が本質
過度な性衝動や活動量があるだけでは、直ちに病的とは見なしません。
重要なのは、本人の価値観や生活目標に照らして明らかな支障が出ているのに、行動の制御に失敗し続けている点です。
ICD-11の診断指針でも、「道徳的な後ろめたさだけ」は診断要件を満たす根拠にならないと示されています。
高い性欲そのものと、制御不能な反復行動は分けて考える必要があり、後者が本人の人生を侵食しているなら、専門的な支援が適切になります。
よくある誤解と見落とされがちなリスク
「気の迷い」「環境が落ち着けば自然に収まる」と見なして先送りにすると、秘密保持のための嘘、職務上のミス、対人信用の低下、金銭的負担、感染症リスクなど、生活上のダメージが雪だるま式に膨らみやすくなります。
自責だけでは行動は変わりません。
逆に「自分は弱いから何をしても無駄」と諦めると、反復を固定化する学習が進みます。重要なのは、恥や罪悪感だけでなく「状況」「手順」「仕組み」を見直し、行動環境からブレーキを利かせることです。
抜け出せない人に見られやすい特徴(サイン)
この章では、行動が固定化しやすい人に共通する心理や環境の特徴を、日常の行動レベルに落として説明します。
情緒の穴を埋める報酬ループができている
慢性的な孤独感、承認不足、達成感の欠乏が続くと、脳は「短時間で確実に気分が上がる行動」を強化しやすくなります。
最初は現実逃避のつもりでも、賞賛の言葉や秘密の共有による高揚感が報酬として学習され、嫌な感情が生じるたびに同じ回路に流れ込む癖がつきます。
このループは「気分が下がる→秘密のやり取り→一時的に上がる→後悔→さらに気分が下がる」という流れで固定されがちです。
報酬の入り口を一度断っても、しばらくは禁断感や空虚感が増すため、反動で戻りやすいのも特徴です。
そこで大切なのは、報酬ゼロにするのではなく、別の健全な報酬(身体を動かす、創作、仲間と公の場で会う、小さな達成を積む)へ置き換え、総量としての「気分の栄養」を補う発想です。
秘密の共有と合理化が並走している
深夜の私的メッセージ、他の誰にも話していない愚痴や悩み、個人的な贈り物のやり取りなど、「二人だけの秘密」は親密さを急速に増幅します。
同時に、「誰も迷惑をかけていない」「いまだけの息継ぎ」などの自己正当化が走り、境界線の侵食に鈍感になります。
やがて、会う場所や時間帯が密室・深夜・飲酒を含む条件へとスライドし、理性のブレーキが弱まる状況が重なります。
こうした小さな越境の積み重ねは、本人の自己像をも変え、元に戻るエネルギーを奪います。
自分の言い訳パターンを紙に書き出し、第三者視点で突っ込みを入れるだけでも、合理化の勢いは弱まります。
接触頻度の高さと「同盟感」を生む環境にある
同じ目標に向かって長時間を共にする職場の共同作業、地域活動や保護者会、共通の趣味サークル。
こうした場所では、努力や葛藤を見せ合う過程で「この人だけはわかってくれる」という同盟感が育ちやすくなります。
活動後の打ち上げや送迎、二人での移動といった場面は、距離を縮める条件がそろいがちです。
境界線が曖昧なまま接触が続くと、外部の関係に心の重心が移動し、家庭や仕事とのコントラストが増幅します。
事前に「誰と」「どこで」「いつまで」を言語化し、可能な限り複数人で動く、公のスペースを選ぶといったルールが、関係悪化の前段階で役立ちます。
改善方法:今日からの自己対処と、必要時の専門支援
この章では、すぐに実践できる行動レベルの手当から、専門家の支援の受け方まで、段階的に整理します。
まずは行動の見える化と「仕組み」の導入
行動は可視化すると変えやすくなります。連絡を取りたくなるタイミング、直前の感情、きっかけとなる場所やアプリ、結果として得られた感情を一枚の記録シートに残しましょう。
連絡ツールの通知や保存先を制限する、連絡は日中のみと決める、会うなら第三者のいる場に限定する、深夜と飲酒時は決して意思決定しない、といった「先に決まったルール」を自分に課すのも有効です。
感情は波ですが、仕組みは固定物です。波に飲まれないために、仕組みで岸をつくるイメージで整えていきます。
関係を続けるにせよ見直すにせよ、対話の再設計が要
家庭のパートナーと向き合う選択をするなら、責め合いではなく「私は〜と感じた」「私は〜を望む」という主語を自分にした話し方で、感情・事実・提案の順に伝えると対話が崩れにくくなります。
家事や育児、仕事の負担配分を棚卸しし、負担の偏りを減らすだけでも、外部の刺激への依存度は下がります。
連絡や会合の透明性(誰と、何のために、どの頻度で)を合意し、境界線の言語化を二人で行うことが、再発予防の土台になります。
関係を見直す場合も、記録と合意のプロセスを残すことで、将来の自分を守れます。
専門家の支援:心理療法と薬物療法の選択肢
制御困難や反復行動が強い場合は、専門家の助けを受けるのが近道です。
衝動や反復行動に対しては、認知行動療法(思考と行動のパターンを見直し、露出反応妨害などで衝動を減衰させる手法)や、変化の意欲を引き出す動機づけ面接の活用が推奨されます。
医師の判断で、抗うつ薬(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)や、症状によっては他の薬物療法が用いられることもあります。
医療的介入の可否は個別に異なるため、精神科・心療内科で相談し、治療方針を一緒に決めていきましょう。
まとめ

「不倫依存症」という言い方は通俗的ですが、制御困難な衝動と反復行動が人生をむしばむ現象は確かに存在します。
言葉に過度に縛られる必要はありません。
重要なのは、行動の本質(制御困難と反復)、固定化させる条件(情緒の穴、秘密と合理化、接触頻度の高さ)、そして具体的な対処(記録と仕組み、対話の再設計、必要時の専門支援)を押さえることです。
今日からできる小さな一手で、未来の自分を守る道は必ず開けます。
一人で抱え込まず、信頼できる人や専門家と、仕組みを言葉にして共有していきましょう。
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